第7章『未来への選択』
玲奈は、金色の竹簡と鏡を抱きしめながら、龍の都の中央祭壇を見つめていた。
「…何かおかしい。」
慎吾が辺りを見回しながら言った。
「確かに、ここが龍の都の中心だ。でも…財宝が見当たらない。」
千草も頷く。
「卑弥呼が残したと言われる莫大な財宝は、この遺跡のどこにもない。」
玲奈は、竹簡を慎重に広げ、そこに記された文字を読んだ。
『倭の未来のために、私はすべてを移す。』
「移す…?」
玲奈がそう呟いた瞬間——
彼女の脳裏に、強烈な映像が流れ込んできた。
壱与の記憶:財宝の行方
遠い昔、壱与は龍の都の祭壇に立っていた。
巫女たちが祈りを捧げる中、壱与は深く息を吸い込む。
「この都の財宝は、ここに置いてはならない。」
彼女は、倭の未来を守るために、ある決断を下していた。
「私がこれを、大和へ持ち出す。」
彼女の前には、莫大な黄金や貴重な品々が積まれていた。
だが、それ以上に価値のあるもの——それは倭の歴史と知識が記された巻物や石碑だった。
「大和の地に、新たな都が生まれる。その時、この遺産は未来の者に託されるべき。」
壱与は、財宝を持ち出し、影の巫女たちと共に大和へと向かった。
龍の都は、封印とともに「空の箱」となり、時間の中に埋もれていったのだった——。
現代:玲奈の気づき
玲奈は目を開き、息をのんだ。
「…この遺跡には、もう財宝はない。」
慎吾が驚いたように振り返る。
「どういうことだ?」
玲奈は竹簡を指差した。
「壱与は、財宝をすべて大和に持ち出したの。ここは、空のまま封印されたのよ。」
千草が深く頷く。
「つまり、この竹簡と鏡は、財宝そのものじゃなく、それがどこへ行ったかを示す“手がかり”だったのね。」
玲奈は、竹簡の最後の一文を指でなぞった。
『未来を担う者よ、大和を訪れよ。そこにすべてが眠る。』
彼女は確信した。
「私たちが向かうべき場所は…大和。」
神無月の新たな動機
その頃——
崩れた瓦礫の間から、神無月がゆっくりと立ち上がった。
彼の身体は傷だらけだったが、目は鋭く光っていた。
「…財宝は、ここにはない。」
彼は、遺跡の崩れた祭壇を見つめた。
そして、玲奈たちが持ち出した竹簡こそが、その秘密を握っていることに気づいた。
「そういうことか…。」
神無月はニヤリと笑い、部下に命じる。
「すぐに準備しろ。我々も大和へ向かう。」
彼の野望はまだ終わっていなかった——。
間一髪の脱出
玲奈たちは、急いで遺跡の出口を目指していた。
崩れゆく石の間を駆け抜けながら、慎吾が叫ぶ。
「ここが崩れる前に脱出しないとヤバいぞ!」
千草が壁を押すと、隠された通路が開いた。
「ここからなら、外に出られる!」
玲奈たちは走り出した。
だが、神無月が後ろから声を上げる。
「待て、玲奈! その竹簡と鏡を渡せ!」
玲奈は振り返らず、ただ前へ進んだ。
「この遺産は、未来のためのもの! あなたには絶対に渡さない!」
崩壊のカウントダウン
ゴゴゴゴ……!!
天井が大きく崩れ、砂煙が舞う。
慎吾が玲奈の腕を引っ張る。
「飛び込め!!」
ドガァァァン!!!
玲奈たちは、最後の一歩で光の差し込む出口へと飛び込む!
そして——
ドカァァン!!!!!
遺跡が完全に崩壊した。
玲奈は、息を切らしながら倒れ込んだ。
慎吾が立ち上がり、千草を確認する。
「…全員、生きてるな。」
玲奈は、崩れた遺跡を見つめながらつぶやいた。
「神無月は…?」
だが、そこにはもう何もなかった。
彼が生きているのか、それとも崩落の下に消えたのか——誰にもわからなかった。
未来への旅立ち
慎吾が玲奈を見つめ、静かに言った。
「つまり、次の目的地は…大和ってことか?」
千草が頷く。
「壱与がすべてを託した地。それが、大和。」
玲奈は竹簡と鏡を握りしめ、前を見つめた。
「壱与は、未来のためにこの選択をした。」
「そして今、私は…その未来を知るために、大和へ行く。」
風が吹き抜ける。
それはまるで、壱与が玲奈の決意を後押しするような感覚だった。
こうして、彼女たちは新たな旅路へと進み始める——。
次なる目的地、大和へ。