第5章『龍の都の遺産』
「行くぞ、玲奈!」
慎吾の声が響く中、玲奈はゆっくりと封印の門に手を当てた。
冷たい石の感触が指先に伝わる。
“壱与の記憶を思い出す——”
目を閉じると、意識が遠のき、再び遠い過去の映像が流れ込んできた。
壱与の記憶:封印の理由
霧が立ち込める龍の都の祭壇。
巫女たちが集い、静かに儀式の準備を進めていた。
中央には壱与が立ち、時の鏡を見つめている。
その鏡の中には——
未来の倭、そして邪馬台国の消滅した世界が映し出されていた。
壱与は拳を握りしめ、決意の表情を浮かべた。
「この都は、倭の未来を切り拓く者のために残さなければならない。」
「今は封じる…そして、未来に託すの。」
龍の都にあった「財宝」は、ただの黄金や宝石ではなかった。
それは、倭の歴史を伝える記録と、未来のための知識だったのだ。
壱与は巫女たちに最後の指示を出した。
「私の血を引く者だけが、ここへ辿り着けるように。」
玲奈の目が開かれる。
「…分かった。」
門に手を当てると、不思議な光が玲奈の指先から広がり、石門全体に伝わっていった。
次の瞬間——
ゴゴゴゴゴ…
巨大な石門がゆっくりと開き始めた。
「玲奈…!」慎吾が驚いたように息をのむ。
玲奈は深く息を吸い込んだ。
「これが…龍の都の入り口。」
千草が静かに言う。
「さあ、中へ。」
龍の都の内部
玲奈たちは、慎重に石の門をくぐり、龍の都の内部へと足を踏み入れた。
中は、広大な石造りの回廊が続いていた。
壁には、古代の文字や絵が刻まれている。
慎吾がスマホのライトをかざすと、壁に大きな浮彫が見えた。
《倭の歴史を未来に託す者》
玲奈は壁を見つめながら、かすかに指を伸ばした。
「ここに…倭の真実がある。」
慎吾が歩きながらつぶやく。
「こんな巨大な遺跡、なんで今まで誰も見つけてないんだ?」
千草が答える。
「それは、壱与が完全に封印していたからよ。」
「この都は、ずっと時の流れの中に隠されていたの。」
玲奈は進むにつれて、心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
“ここに…卑弥呼の遺産がある。”
卑弥呼の遺産
やがて、一行は大広間へとたどり着いた。
そこには、中央に祭壇があり、ひとつの箱が置かれていた。
玲奈はそっと近づき、箱に手をかける。
「開けても…大丈夫?」
千草は静かに頷いた。
玲奈が箱を開くと——
中には、金色に輝く竹簡と、ひとつの鏡が収められていた。
慎吾が息をのむ。
「これは…?」
千草が言った。
「卑弥呼の遺言と、時の鏡のもうひとつの欠片よ。」
玲奈は竹簡を手に取り、慎重に広げた。
そこには、古代の文字でこう記されていた。
『私の遺志を継ぐ者よ、倭の未来を切り拓け。』
玲奈の手が震えた。
これが…卑弥呼の本当の遺産?
神無月の襲撃
その時——
「へえ、ようやく見つけたみたいだな。」
玲奈たちの背後から、男の声が響いた。
神無月だった。
彼の後ろには、黒ずくめの部下たちが立ち並んでいる。
慎吾がすぐに玲奈の前に立つ。
「なんでここが分かった?」
神無月は薄く笑う。
「こっちは正攻法じゃなく、力技で来たんでな。」
「さあ、そいつを渡してもらおうか?」
玲奈は、卑弥呼の竹簡を握りしめた。
「絶対に渡さない…!」
神無月はニヤリと笑った。
「…面白い。なら、力づくでいただくとしようか。」
龍の都の遺産を巡る戦いが、ついに始まる!