第5章:富士山・本栖湖の謎
2025年・富士山麓 本栖湖
——夜明け前、本栖湖の湖畔。
玲奈と慎吾は、エンジンを切ったバイクから降りた。
冷たい朝の空気が肌を刺す。富士山のシルエットが、湖面に映し出されていた。
慎吾はヘルメットを脱ぎながら、湖を見渡した。
「……静かすぎるな。」
「ええ。でも、この湖の底に何かが眠っている。」
玲奈は竹簡を取り出し、慎重に広げた。
「富士の王国、開かれし時、巫女は目覚める……。」
(この湖のどこかに、“何か”が隠されているはず。)
慎吾は湖の地形データを確認しながら呟いた。
「本栖湖は、富士五湖の中で最も深い湖だ。最大水深は121メートル……湖底を調査するのは簡単じゃないな。」
玲奈は慎重に竹簡をなぞる。
「待って……。もう一度、この暗号をよく見て。」
慎吾が覗き込む。「何か分かったのか?」
玲奈は竹簡の最後の一文を指差した。
「天が二度裂かれる時、鏡は真実を映し出す。」
慎吾が眉をひそめる。「……天が二度裂かれる? どういう意味だ?」
玲奈は夜明けの空を見上げた。
(天が裂かれる……まるで、何かが開くような表現。)
玲奈は竹簡をひっくり返し、裏面を指でなぞった。
「もしかすると……湖の底に沈んでいる“鏡”に関係があるのかもしれない。」
慎吾は息を呑んだ。
「つまり……湖底に何かが隠されている?」
玲奈は頷いた。「でも、どうやってそこに行くの?」
慎吾は湖に視線を向けた。
「潜るしかないな……。」
玲奈は慎重に周囲を見渡した。
(影の巫女や神無月が、ここに来ていないとは限らない。)
その時——。
「遅かったな。」
玲奈と慎吾の背後から、冷たい声が響いた。
影の巫女との対峙
玲奈が振り向くと、そこには黒装束の女が立っていた。
影の巫女——。
玲奈の背筋が凍る。
「……やっぱり、来たのね。」
影の巫女のリーダー格の女は、静かに歩み寄った。
「お前たちがここに来ることは分かっていた。」
慎吾が身構える。「俺たちの動きをどうやって掴んだ?」
影の巫女は竹簡に視線を落とす。
「それは、竹簡そのものが導いたのだ。」
玲奈は驚いた。「竹簡が?」
巫女のリーダーは頷いた。
「それは、ただの古文書ではない。“記憶”が刻まれた聖なる遺物……お前たちがそれに触れた時から、お前たちは歴史の流れに取り込まれた。」
慎吾は苦笑した。「なんだよ、それ。俺たちは単なる考古学者だぜ?」
巫女の女は、玲奈の方を見据えた。
「お前は違う。お前は、選ばれた者なのだ。」
玲奈の呼吸が止まった。
「……選ばれた?」
「お前は、卑弥呼の意志を継ぐ者。」
玲奈の手が震えた。
「何を言ってるの……?」
影の巫女は静かに続けた。
「お前が鏡を見つけることが、定められている。」
その時——。
「伏せろ!!!」
慎吾が叫び、玲奈の肩を引いた。
——パァンッ!
銃声が響く。
玲奈と慎吾は地面に伏せた。
遠くの木立の中から、神無月のスナイパー が狙撃していた。
影の巫女の一人が即座に動き、手裏剣を投げる。
——シュッ!
刃が狙撃手の銃を弾いた。
慎吾が叫ぶ。「玲奈、今のうちに行くぞ!」
玲奈は竹簡を握りしめたまま、湖へと走った。
(湖の底に、すべての答えがある——!)