第1章:魏の使者が残した秘密
西暦2025年・東京——
「邪馬台国の謎は、今も未解明のままです」
教授の言葉が講義室に響き渡る。
午後3時、東京大学考古学研究室の大講義室。藤堂玲奈 は、100人以上の学生を前に、卑弥呼と邪馬台国について講義をしていた。
彼女の背後のスクリーンには、魏志倭人伝の古い書物の画像が映し出されている。
「この史書には、3世紀の倭国の女王 卑弥呼 のことが記されています。彼女は、魏の皇帝・曹叡(そうえい)に使者を送り、『親魏倭王』の称号と銅鏡100枚を授けられた とされています。」
スクリーンが切り替わり、日本各地の考古学的発掘成果の写真が映る。
「邪馬台国の場所については、未だ議論が続いています。九州説(佐賀県吉野ヶ里遺跡)、近畿説(奈良県箸墓古墳) の二つが有力ですが、証拠は決定的ではありません。」
玲奈は一呼吸置いて、学生たちを見渡した。
「では、皆さんに質問です。もし魏志倭人伝には記されなかった”もう一つの文書”が見つかったら、どう思いますか?」
教室がざわめいた。
「魏の使者が持ち帰った報告書が、実は日本国内に残されていたとしたら? そこには、魏から授けられた**”真の贈り物”**についての記述があったとしたら?」
学生たちの表情が一変する。退屈そうにしていた者も、身を乗り出した。
「…それは、今日の講義の範囲には含まれませんが。」
玲奈は意味深に微笑んだ。
“真の贈り物”——それは、魏から授けられた銅鏡100枚ではなかったのか?
玲奈の胸の奥で、考古学者としての探究心がざわめいた。
その夜、彼女の元に届いた一本の謎のメールが、全ての始まりだった。
夜、考古学研究室
玲奈は講義を終えた後、自分の研究室に戻っていた。
歴史の本がぎっしり詰まった本棚、壁には日本各地の遺跡の写真。机の上には、魏志倭人伝のコピーが開かれたままになっている。
ピコン——!
玲奈のパソコンが新しいメールの受信音を鳴らした。
送信者不明のメールだった。
件名:「魏の使者が残した秘密の書」
本文:「あなたの研究に興味がある。添付ファイルを見てほしい。」
不審なメール。しかし、添付された画像に玲奈は目を見張った。
古びた竹簡(たけのふだ)の写真。
そこには、明らかに魏の時代の漢字でこう書かれていた。
「倭国の女王・卑弥呼へ——
魏は、秘宝を授ける。
この鏡に宿る力、慎むべし——」
玲奈の胸が高鳴った。
「…これは、魏志倭人伝にはない記述?」
さらに、メールにはこう続いていた。
「鏡は、白き峰のもとに眠る。三つの影が導く道を辿れ。」
暗号——?
この瞬間、玲奈は確信した。
「この文書が本物なら、邪馬台国の真実が覆る——!」